思考・妄想の外部化-経営コンサルタントの頭の中-

仕事や読書、人々との会話を通して若手コンサルタントが日々考えている事を不定期にアウトプットしています。ビール好きなのでそれに関することも多少。

独占と競争-ピーターティール「Zero to One」、アルライズ「マーケティング戦争」からの学び-

少し前になりますが、ペイパルの創始者であり投資家のピーターティールによる著書「Zero to One」が話題になりました。その中で特に多くの方の印象に残った主張として「競争ではなく独占する、競争は愚者の行うことである」というコンセプトがあったかと思います。

読んだ直後には、従来の競争戦略論を真っ向から否定するような主張に感じていたのですが、そうではなく従来からある競争戦略の枠組みの中での議論と捉えられると考えるに至りました。そもそも、独占と競争は対立軸ではなく、特定の市場における競争に圧倒的に勝った結果として独占が得られるのでしょう。

この考えに至った経緯として、上記の「マーケティング戦争」を読んだことがあります。この本は企業のマーケティング戦略をクラウゼヴィッツの戦争論に基づいて、論じた本です。

「マーケティング戦争」

マーケティング戦争のなかでは、プレーヤー(企業)を4タイプに分け、それぞれの戦略を示しています。基本的に数的にも優位で、防衛戦を張れるリーダーが有利であり、リーダーの交代は頻繁には起こらないという前提の中で、各プレーヤーがいかに戦うべきか、クラウゼヴィッツを引用しつつ述べられています。

※プレーヤーの名称は本書の内容と異なりますが、わかりやすくするため、マーケティング論でよく用いられるプレーヤー名としています。

1.リーダー:防衛戦

既に持っているシェア・資産を使い、チャレンジャー、フォロワーの攻撃を先回りする。常に先行して市場を作り出す。他社に出し抜かれた場合にはすぐに真似する(二番手戦略)

2.チャレンジャー:積極攻撃

リーダーの「強みに潜む弱み」を突く、あるいは自社の強みを用いてリーダーを正面攻撃し競争する

3.フォロワー:側面攻撃

新しいサブカテゴリーを生み出し、その市場で戦う。リーダーの正面ではなく側面から攻撃を仕掛ける

4.ニッチャー:ゲリラ戦

フォロワーよりもさらに小さく、リーダーは狙いにこないような市場に集中し、局地的に勝つ

またそれぞれの市場におけるプレーヤー数には大きな偏りがあり、おおよそリーダーは1社、チャレンジャーは2社、フォロワーは3,4社、残りほとんどがゲリラ戦を行う必要があるくらいの感覚だといわれます。

 

独占と競争

ティールが主張するようにゼロから何かを生み出す場合、スタート時点では基本的に組織は小さく、上記の戦略でいうところのゲリラ戦を行うプレーヤーであるといえます。

そのようなプレーヤーが「独占」を目指す場合、強大なリーダーとの真っ向からの競争に陥らない市場、サブカテゴリーを選び、かつその市場が将来的には大きな市場になるということが必要となります。

ティールは「世の中の多くの人は真理と考えていないが、真理であることは何か?」という問いかけをすることにより、そのような市場(局地)を見つけるのでしょう。

(注意すべき点として、ゲリラ戦の市場が本当に新市場であるか否かは顧客が決めるということがあります。その判断を見誤りリーダーのいる市場に攻撃を仕掛けた場合、リーダーに駆逐されることとなるでしょう。)

 また、局地を見つけた後にはその地を制圧・独占し、独占を継続する必要があります。そのための要素としてティールは、圧倒的なテクノロジー、ネットワーク外部性*1によるスイッチングコストの上昇、規模の拡大を挙げています。これらの要素を満たすことによってゲリラ戦を行ったプレーヤーは局地におけるリーダーとなり、防衛戦を行うことができます。

 

つまり、ティールの言う「独占」とは、今はまだ存在しない、あるいは小さな市場、サブカテゴリーの中から、将来的に爆発的に伸びる市場(局地)を見つけ出し、そこにゲリラ戦を仕掛けること、その後局地におけるリーダーとなり防衛戦を展開することと解釈することができると考えられます。

 

*1ネットワーク外部性 - Wikipedia