思考・妄想の外部化-経営コンサルタントの頭の中-

仕事や読書、人々との会話を通して若手コンサルタントが日々考えている事を不定期にアウトプットしています。ビール好きなのでそれに関することも多少。

クリティカルチェーン-プロジェクトマネジメントがうまくいかない理由と、その改善策-

みなさんが担当されているプロジェクトは計画通り順調に進んでいますか?

私が担当するプロジェクトでは、完全に計画通り進んだものがぱっと思いつかない程度には頻繁に遅れており、悩みの種になっています。多くの人が同様の悩みを感じ、あるいは「プロジェクトは遅れるものだ」と半ば諦められている人も多いのではないでしょうか。

そこで今回はプロジェクトマネジメントに関する本を紹介したいと思います。

生産現場における制約理論(Theory of Constraints)をテーマにした「ザ・ゴール」で有名なイリヤフ・ゴールドラット博士が、プロジェクトマネジメントに関する「クリティカルチェーン」という本を書いています。この本にはプロジェクトを締め切り通りに終わらせる、リードタイムを短縮させるためにTOCを適用するノウハウが詰まっています。

(彼の著書はいずれも小説仕立てになっており読みやすく、コンセプトが具体例で示されるためわかりやすいのでお奨めです。)

プロジェクトマネジメントへのTOCの適用

この本における新たな気づきは「個別タスクにバッファを持たせるのではなく、プロジェクト全体としてバッファを持つ」ということです。

また、いわゆる生産ラインにおけるTOCと同様ですが以下もポイントとなります。

・プロジェクトのクリティカルパス*を把握し、そのスピードを規定するボトルネックを明確にする

ボトルネックを短縮すること、また100%使い切ること

ボトルネックのスピードに合わせてほかのタスクを進めること。 部分最適ではなく全体最適を実現する

 

多くのプロジェクトでは個別部門が各タスクスケジュール設計を行い、個別にバッファを抱えているのではないでしょうか。そして仮に、各タスクが計画よりも早く終わったとしても、その余剰分は使い切られます。

なぜなら、第一に、プロジェクト上の後続タスクは当初計画されていた時間がたった後に開始するようスケジュールが立てられていおり、リソースの都合、他タスクとの前後関係等により前倒しの実行はできないためです。

第二に、タスク実行者は期限のぎりぎりまで本気にならず、計画よりも早くタスクを完了させることにインセンティブがないためです。(本書内では学生の宿題の例があげられています)

そして往々にして個別タスクはスケジュールどおりに終わらないという状態になります。

つまりプロジェクト全体で見ると、計画よりも早く終わったタスクの時間余剰は消滅し、計画よりも長くかかった時間不足分は直接プロジェクトの遅れとして発生するということです。

これを避けるために、個別タスクにはバッファを積ませず、完了するかぎりぎりのスケジュールを組ませる。そして各タスクの遅れはプロジェクト全体としてバッファを持ちそこで吸収するという方針が提示されています。

クリティカルパス:事実上プロジェクトのスケジュールを規定するタスクの連なり

実際の現場に適用する場合の課題

理論上は非常に面白く、これが実現したらプロジェクトが予定の締め切りどおりに終わるケースも増えるだろうと感じました。一方、このコンセプトを実現させるためにはいくつか課題があるとも感じました。

・プロジェクトに関与するメンバー全員がこの考え方を理解する

多くの組織、部門では長年にわたって、各タスクは確実に計画通りに終わるように設計すると刷り込まれていると考えられます。その前提を一度壊す必要があります。

・タスクの工数見積もりは根拠を持って正確に見積もること

バッファを積まないギリギリの計画を立てるには、各タスクにどれだけの時間が必要か把握する必要があります。多くのプロジェクトにおいて、作業の見積もりを高精度で行うことは課題となっています。

仮にタスクがスケジュールから遅れてもそれを罰さない

タスクが遅れた場合にそれを罰すると、各部門は何とかしてタスクにバッファを積もうとします。当初からギリギリに設計させるためには間に合わない場合にもそれを受け入れる必要があります。

・実行者はタスクをスケジュールどおりに終わらせるように全力を尽くす

一方、スケジュールからの遅れを罰さない場合、タスク実行者が「別に遅れてもいい」というマインドになるリスクがあります。これを防ぐことが成功の前提となります。

このように、本書の考え方をプロジェクトに導入するにあたり、タスクスケジュールをぎりぎり終わる時間に設定させ、かつそれをスケジュール通りにやりきらせるということが非常に難しい課題なのだと考えます。

ただこれが実行できている企業は「何が何でもやりきる」という文化が形成されており、それがつまり目標管理の徹底、企業としての執行力の高さであり、強さの源泉になるのではないでしょうか 。