思考・妄想の外部化-経営コンサルタントの頭の中-

仕事や読書、人々との会話を通して若手コンサルタントが日々考えている事を不定期にアウトプットしています。ビール好きなのでそれに関することも多少。

オープンクローズ戦略-エコシステムを形成すること-

先月読了し、非常に興味深かった本について考察したいと思います。日本企業、特に電機メーカーがなぜ競争力を失い、今後どのように立ち直るべきなのかについて考えられる本でした。

産業環境の変化ーハードウェア型からソフトウェア型へー

日本企業が技術で勝って、事業で負けるといわれて久しいです。

しかし本当にそうなのでしょうか、技術というのはあくまでハードウェア技術であり、ハードとソフトを融合したものづくり技術ではすでに競合に勝てていないのではないでしょうか。

多くの産業がハードウェア型からソフトウェア型にシフトしています。

ハードウェア型とは、物と物のすり合わせを必要とする、技術移転、定着に時間がかかる産業です。一方ソフトウェア型は、ソフトウェアによって各モジュールの組合せが簡単になっており、技術移転定着が短時間で可能な産業です。

産業によってハードウェア型からソフトウェア型へのシフトスピードは異なり、このシフトが早いエレクトロニクス業界では、市場を席巻していた日本の電機メーカーはアジアの新興企業技術的にキャッチアップされ取って代わられつつあります。そこで多くの電機メーカーは主戦場をエレクトロニクスから、インフラやB2Bデバイス、住宅等の技術移転速度(シフトスピード)の比較的遅い産業に移そうとしています。しかし、多少の差こそあれ、自動車や、家などかつてはハードウェア型だった産業にも続々とソフトウェアの要素が入ってきており、将来的には多くの産業がソフトウェア型になることが予想されます。(googleの自動運転車やIOTと呼ばれる様々なガジェットがアプリケーションで管理されるなどこの傾向は加速度的に進むと考えています。)

ソフトウェア型産業の中でとるべき戦略

このように、ソフトウェア化が進む産業の中で、利益を出し続けるには、自社を中核として他社に影響を与え、巻き込むエコシステムを形成する必要があると考えられます。現実にソフトウェア化の進む業界では各社が、多くの企業がエコシステムを形成しようとして戦っています。例示すればPCにおけるインテルスマートフォンにおけるクアルコム、MTKなど枚挙に暇がありません。

また、googleやアップル等のテクノロジー企業の巨人たちも多くのソフトウェア化する産業の中でエコシステムを形成し、その中核にいようとしています。直近で最も動きが激しいのは自動車業界でしょう。車載の情報端末からソフトウェア化を進め最終的には走行制御の部分までgoogle/Appleを主体としたエコシステムに取り込もうとしている様子が見て取れます。

この取組みの中でキーとなるのは、他社に対して自社が代替不能な存在になることです。そのために、コア技術はブラックボックス化して隠しつつ、インターフェーズ部分は公開して積極的に他社と協業する。それによって自社無しではビジネス展開が難しい状況(デファクトスタンダード)を作り出すことを目指しています。この実現には高度な特許戦略、ルール設計が必要になりますが、詳細の議論は本書に譲ります。

 

もちろん、必ずしも全ての企業がエコシステムの中核になることは難しいですが、単にエコシステムに取り込まれるだけでは、利益の大半はエコシステムの中核企業に奪われてしまいます。仮にエコシステムの中核になれない場合であっても単なるモジュール提供者になるのではなく、中核企業と相互依存の関係を構築することが重要になるのでしょう。したがって、全ての企業にとって業界のエコシステムを把握し、その中で有利な立場になる戦略を考えることは必要であると考えています。

エコシステムを形成する人材

以前、仕組みを作るということについて記事を書きました。

http://taka-kousou.hatenablog.com/entry/20131215/1387108725

今回論じているエコシステムも広い意味での「仕組み」であるといえます。当時はあくまで企業内、企業間におけるルールや制度を想定していましたが、産業全体のエコシステムを形成すべく戦略を立ててそれに向けて動くというのはとても興味深い。このような大局的な目で産業の状況を読み、自社をキープレイヤーとしたエコシステムを設計し、その実現に向けて動ける人材が日本企業に求められているのでしょう。
参謀として、軍師として、産業を動かせるそんな人材でありたいと考えています。