思考・妄想の外部化-経営コンサルタントの頭の中-

仕事や読書、人々との会話を通して若手コンサルタントが日々考えている事を不定期にアウトプットしています。ビール好きなのでそれに関することも多少。

ビジネスプロデュース戦略ー産業の壁を超えた事業創造に必要なこと➖

今日はコンサルティングファームドリームインキュベータ(DI)が、数多く手がけてきた事業創造プロジェクトの経験に基づき、その方法論を解説した本を紹介したいと思います。

 近年、多くの日本企業において既存事業の成長が鈍化し、新たな軸となる事業を立ち上げようと努力しています。特に最近では様々な企業がロボット、ライフサイエンス、AI、ドローンなどといったキーワードで新ビジネスを開始すると話題にあがっているのを聞いたことがあるのではないでしょうか。

 しかし、実際に新たな主軸となるようなビジネスを起こせているケースは多くありません。その原因として、有望な技術が起点となっており、そのビジネスによって解決される課題が小さいということが想定されます。

 この問題を解決するために本書では環境問題、人口問題、エネルギー問題といった「社会課題」を起点とした事業創造を提案されています。ただし、社会課題を解決するためには今までの産業という枠組みを一度外し、解決策を検討する必要があり、難易度はさらに高まります。このような難しい取り組みを実現するための方法論について本書では紹介されています。そこから重要なポイントを自分なりに再整理したところ、以下の様にまとめられると考えています。

 

産業の壁を超えた事業創造に必要なこと

  1. 業界や企業という前提を外した大きい絵を描く力(コンセプトメイキング)
     社会課題はひとつの企業が提供する製品やサービスで解決できるとは考えにくく、業界の壁を超えて今は存在しない新たなエコシステムを形成することにより解決策が見いだせると考えられます。例として、エネルギー問題を起点として電気自動車ビジネスを始めようと考えた場合、電気自動車メーカー単体では電気自動車の普及を実現することは難しく、インフラ(電気スタンド)やキー部材(電池)も検討領域に含める必要があります。
     このようなエコシステムをデザインするという観点では、以前考察したオープン・クローズ戦略も近しいところがあるように思います。
    オープンクローズ戦略-エコシステムを形成すること- - 思考・妄想の外部化-経営コンサルタントの頭の中-
  2. 法律や規制を制約とせずに必要に応じて変える力(ルールメイキング)
     また、社会課題を解決するような取り組みをする場合、既存のルールが障壁となったり、将来的に設定される新たなルールが障壁になるケースが想定されます。例えば今後自動運転車が普及していくと想定すると、道路交通法が障壁となることは明らかです。この時、各国の省庁に働きかけ新しく制定される法律を自社に有利なように設定できるかはその後のビジネス展開に大きな影響を与えます。
     このようにロビー活動を積極的に実施し、法律や制度に影響を与えることも、新産業を作成する上で重要な要素であると言えます。
  3. 大きい絵を実現するための協力者と繋がる力(ネットワーキング)
     新事業を生み出すにあたり必要なプレーヤーを選び、巻き込み、同じゴールを目指す協力者にすることも必要不可欠です。その際に、それまでの取引先や関連会社を対象とするのではなく、同じコンセプトを実現する主体者として最適なプレーヤーを選び、協力関係を作ることが重要であると言えます。場合によっては競合他社を巻き込む必要があるケースも多いでしょう。
  4. 構想通りに物事が進まない場合に臨機応変に修正する力(リーンチェンジング)
     新しい事業を生み出すことは不確実性が高く、いかに計画を綿密に立てていても想定外の事象は発生すると考えておいたほうがよいでしょう。その想定外が発生した際に、混乱するのではなく臨機応変に方向転換する能力も、重要であるといえます。
  5. オーナーおよび協力者と適切なKPIを設定・合意し、進捗をフォローすること(ゴールセッティング)
     新事業の中でも特に規模が大きいものでは、立ち上げ直後から黒字化をすることは難しいでしょう。その時にオーナーおよび協力者と何が実現されれば、新事業は順調に進んでいると言えるのか、それを評価するためのKPIを設定し、合意することも事業を途中で止めないために重要なポイントです。

事業創造の実現に第3者(コンサルティングファーム)が提供できる価値

 上記に挙げた5項目はそれぞれ難易度が高く、社内のリソースだけでまかなえる企業というのは殆ど無いのではないでしょうか。そこに我々コンサルタントの提供価値があるように感じています。

例えば、1.コンセプトメイキングでは、既存の事業の前提や利害関係にとらわれていないからこそ、広い視野を持ち大きなコンセプトを作るサポートができると考えられます。

2.ルールメイキングでは実際に法案を作成していた中央省庁出身者のコンサルタントを活用することで、実現性が高まるでしょう。

また、3.ネットワーキングに関しては様々な業界におけるプロジェクトを経験しているからこそ、業界を横断した人脈を提供が可能となります。

5.ゴールセッティングについても、第3者であるがゆえに、プレーヤー間で発生する利益相反が発生せず、フェアな目線でKPI設定ができます。

以上のように、新事業、新産業を想像する上で、コンサルティングファームが価値を提供できる要素は多いのではないでしょうか。そのようなプロジェクトに関与できるとワクワクします。