思考・妄想の外部化-経営コンサルタントの頭の中-

仕事や読書、人々との会話を通して若手コンサルタントが日々考えている事を不定期にアウトプットしています。ビール好きなのでそれに関することも多少。

ビジョナリーカンパニー2-針鼠の概念を個人に適用する-

10年以上前に出版された本でありいまさら感もありますが、「ビジョナリーカンパニー2」について紹介したいと思います。

本書では一般的な企業が偉大な企業へ飛躍した要因について分析されています。

分析対象となったいずれの偉大な企業も、「規律あるリーダー・人材」「規律ある考え」「規律ある行動」という共通した特徴を持っていると分析されていますが、その中でも「針鼠の概念」という部分が印象的だったので紹介し、それを個人に適用するとどうなるか考えてみたいと思います。

針鼠の概念とは

偉大な企業は非常にシンプルなコンセプトに特化した戦略を持って、それをすべての活動の指針としています。これを、体も小さく、動きも遅い針鼠が唯一の強みである針を使って生存してきたことになぞらえて、「針鼠の概念」と呼んでいます。

偉大な企業が従うシンプルなコンセプトは以下3点の共通部分に特化するということです。

  • 「情熱をもってとりくめるもの」
  • 「自社が世界一になれる部分」
  • 「経済的原動力となるもの」

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個人のキャリアへの応用

この針鼠の概念は個人のキャリア形成でよく語られる「Want, Can, Must」モデルに近いと考えられ、それぞれ以下のように紐づけることができます。

  • Want「やりたいこと」→情熱を持って取り組めるもの
  • Can「できること(あるいは人より上手にできる部分)」→世界一になれる部分
  • Must「やるべきこと(人から対価を得られること)」→経済的原動力となるもの

これらの3つの共通部分に特化できれば個人としても、偉大な成果を残せるでしょう。

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若手社会人の実際

しかし、3つの円の共通部分というのはそう簡単に見つかるものではないでしょう。

特に新人や若手の間は、下図のように「Want」は明確に定義できず、「Can」は経験が少ないためまだまだ小さく、「Must」だけは果てしなく大きいように感じてしまうでしょう。結果として、働き出した瞬間から3つの円の共通部分にいると感じられる人は非常に少数だと考えられます。

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RiceWorkとLifeWork

若手や新人に限らず、経験を積んだ社会人でも多くの人は、3つの円の共通部分は感じられていないのではないでしょうか。仕事柄多くの社会人と話す機会がありますが、日々の飯の種を稼ぐ仕事(Rice Work)をしている人が多く、人生をかけるべき仕事(Life Work)だと感じて働いている人は少数だと感じています。

  • Rice Work

多くの人は働く中で、「食っていくためにはしょうがない」と半ば現状を改善することを諦め、何をやりたいのか(Want)が薄まり、自身の能力拡大(Can)も諦め、単純に日々の業務(Must)をこなすことに終始する。そして日々努力している人を「意識高い」「青臭い」と揶揄する 

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  •  Life Work

働く中で情熱を感じる部分(Want)を明確にし、そのための能力拡大(Canの拡張)をすることで、3つの円の重複部分を大きくすること。結果として一生かけてやる価値があると思えることを仕事とすること

 

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ただし、自分が世界一になれるような部分というのはそう簡単には見つからないでしょう、あるいはそもそもないかもしれない。そのような時には、能力を掛け算する意識が大切だと考えています。

特定の1つの市場で世界一になることは難しくても、100人に1人くらいの実力には努力すればなれるでしょう。その100人に1人の実力を2個持って、それらを組み合わせれば、その市場では10,000人に1人の実力であるといえます。さらに3つ組み合わせれば100万人に1人の実力であると言えます。

詳細は下記の藤原さんの講演を参照してみてください。

logmi.jp

 

日々のやるべきこと(Must)の忙しさにかまけずに、情熱を注げること(Want)は何なのか、それに向けて自分が広げるべき能力(Can)は何なのか考えながら生きていけるとよいですね。

30代から大きく伸びる人の勉強法-習慣化の力-

 

年末に向けてプロジェクトでの作業量が多いためか、最近あまり勉強する時間が取れていないことを反省し、昔読んだ勉強法に関する本を改めて読み返しました。

特殊な勉強法が書かれているわけではないですが、書かれていることを徹底的にやりきったならば、年齢に関係なく大きく伸びるだろうと感じます。特に印象に残った部分を記録しておくと共に、継続的に努力し続けていきたいと思います。

 

0.努力を習慣化する

スポーツ選手がインタビューで「特につらかった練習はなんですか?」と聞かれた際に、しばしば「つらかった練習のことはよく覚えていない」と答えます。これは、彼らにとって、努力することが日常であり、厳しい練習することに強い意思はもはや不要になっているためだと考えられます。

新しいことを始めて習慣にするまではエネルギーがいりますが、いったん習慣になってしまえば、むしろやらない方が気持ち悪いという感覚になります。例えば、私にとって、ランニングは習慣化されており、2週間以上走る時間が確保できないとなんとなく体がすっきりしないように感じます。

このように一般的には努力といわれるようなことでも習慣化してしまえば、つらく感じないですし、継続することができます。以下は、本書で推奨されている勉強法であり、完全に習慣にしてしまいたいと考えています。

 

1.読書によって経験を体系づける

直接的に体験することが何よりも密度の高い学習にはなりますが、読書というのは著者の経験を疑似体験するという意味でかなり効率のよい学習法だといえます。

密度で言えば、「実体験>話を聞く>読書」かもしれませんが、時間、空間的な利便性や学習しうる幅の広さでは「読書>話を聞く>実体験」であると考えられます。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」とも言われるように、様々な人の経験を読書を通じて疑似体験することによって、よりよいアウトプットを出せると考えています。

さらに実体験と関連する領域の本を読むことで、個別の経験を単純に蓄積するだけではなく、各経験と知識が体系的に結びついていきます。このように個別の経験と読書によって得られた知識が体系的に結びつくことによって、自分にとって未経験の取組みをする場合にも、暗中模索せずに思考の枠組みをもって取組み、世の中で成功しているもののエッセンスを応用することができると考えています。

 

2.日々の気づきをメモする

常にメモをできるように、ノートとペン(あるいはパソコンのメモツール)を開いておくことで、何かひらめいたことを忘れないようにすることが重要です。

「馬上、枕上、厠上」というように、新しいアイディアは意外と机の前で思い悩んでいるとき以外に降りてくるものです。そしてそのようなアイディアは往々にして、忘れやすいものです。だからこそ、思いついたときに1分立ち止まり、思考すること、そしてその思考を記録することが大切だと考えています。

去年から習慣的にゼロ秒思考を行うようになりましたが、一回紙に書くことによって頭の中での定着度合いが大きく違うことを実感しています。

 

taka-kousou.hatenablog.com

 

 

3.勉強会に参加する

自分1人で勉強するよりも、一緒に勉強する人を探し、議論し、意見を聞くことによってモチベーションを保てると共に、自分の思考の質も高められると考えています。

今年の後半からは、定期的に「Economist誌の輪読会」に参加し始めました。

当初は英語の勉強を目的としていましたが、題材としてEconomist誌を使用することで、日々の仕事ではあまり触れないような領域についても議論できています。例えば最近ではアフリカの政治問題や、EUの移民問題など、日本のメディアでは詳しく報道されないような世界での出来事について、自分達なりの意見を持って議論を進められており、自分の知っている世界が広がっていく感覚があります。

これはまだまだ習慣化というレベルには達していないので、来年以降はより積極的に参加したいと考えています。

 

4.予習・復習をする

多くの人は学生時代には授業の前後でに予習・復習をして学習効果を高めていたと思いますが、社会人になると意外と十分に予習・復習をする人は少ないように感じています。

仕事において「予習」とは、次に必要なタスクの先読み、シミュレーション、事前準備であり、「復習」とは振り返りの実施、次回への改善策の検討と定義することができると考えています。日々の業務の中でPDCAサイクルを回すことだと言い換えられるかもしれません。

これらは私が2015年の抱負として設定した内容とも重複していますが、継続的に実施していきたいと思います。

taka-kousou.hatenablog.com

 

以上のように、1.読書による経験の体系化、2.アイディア・思考のメモ(ゼロ秒思考)、3.勉強会への参加、4.予習・復習の実施(PDCA)を習慣化することによって、意思の力に頼らず、継続的に努力していきたいと思います。

自分からチャレンジできる環境を作るということ

どこのインターネット記事で読んだかは忘れましたが、nanapiのけんすうさんも、C-Channelの森川さんも、キャリアを形成する中で「自分が成長できる、新しいことにチャレンジできる環境を意図的に作り、そうやってチャンスを得てきた」とおっしゃっていました。
確かに振り返ってみると、しばらく同じ環境で似たような業務を繰り返していると、特に工夫をしなくても業務を進められるようになり、成長がなくなるというのはその通りだという実感があります。言い換えればコンフォートゾーンに安住してしまうとも言えます。

成長を続けるためには、チャレンジできる環境に自分を置き、チャンスを作っていくということが大切だと感じます。そのような環境を得るには、重要なポイントが2つあると考えています。

1.やりたいことを意思表示すること

チャンスを与える側の人たちは忙しく、黙っていても評価してもらえるほど丁寧に個人を評価はできません。また、チャンスを与える際には意外と厳正な評価はなされずに、「あいつよさそうだな」という曖昧な印象や、「そう言えば、あいつやりたいって言ってたな」という記憶に基づいて判断がされます。
したがって、印象をつけるため、また記憶に残すためにも部門内外、社内外に手を挙げていくことが重要であるといえます。まずは近場の部門内から、段々と社外に対してアピールする活動ができるとよりチャンスは広がっていくのでしょう。

具体的にはヘッドハンターに会ったり、外部メディアに連載したり、本を執筆することがそれにあたると考えています。

 

2.今の環境で成果を出すこと

逆説的ですが、今のところで徹底的に結果を出すことが重要だと考えます。
多くの人が「やりたいことをやらせてもらえない」と言いますが、選ぶ側の気持ちになってみると、今のところで成果を出せていない人が、「これがやりたいことではなく、新しいチャレンジがしたい」と言っていても、単純に逃げている印象しか与えられないでしょう。

 

したがって、やりたいことをやるためにチャレンジできる環境を作るには、今のおかれた環境で結果を出しつつ、やりたいことをアピールすることが大切になるのでしょう。

今後自分がチャレンジし続けるためにも、このことを意識していきたいと思います。

自信を持つために必要なたったひとつのこと

日々の仕事のなかで自信を持った振る舞いができないことが多い、成果が出せず正直伸び悩んでいる感覚がある。

このように感じることは皆さんにも多いのではないでしょうか。

 私もこのように感じることは多いです。一方で、場合によってはとても自信を持って振舞うことができ、結果として成果も評価もよかったケースもあります。したがって単純に生まれ持った性格のせいではないと言えるでしょう。それでは、自信を持てる場合とそうではない場合の違いはどこにあるのでしょうか。

自信を持つには徹底した準備をすることが前提

今までの経験を振り返ると、自信を持つには準備を徹底的にやりきることが大切だったと考えています。

例えば学生時代にも原稿を準備して十分に練習したプレゼンは自信を持って行えましたが、ギリギリまで資料作成して、練習が足りない時には必要以上に緊張してしまい、しどろもどろになることが多かったように思います。

仕事においても、自分が誰よりも詳しい担当領域については自信を持って説明できますが、目的や位置づけがいまいち把握できていないタスクや領域は曖昧な説明となり、聞き手であるクライアントや上司から突っ込まれてしまいます。

したがって、自信を持つには、「この領域は誰よりも自分が詳しい」と思えるくらいの準備と、オーナーシップを持つことが重要なのではないでしょうか。

このようなマインドについては、以前読んだ、「外資系トップの仕事力」という本にも書いてあり、多くの外資系トップの方々が自分が若手時代に大切にしていたこととして紹介されていました。 

 

仮に今の自分の担当領域が長期的なキャリア計画と合っていないと感じていたとしても、これ以上ないというくらい準備、シミュレーションをすべきだと考えます。なぜなら徹底的に準備をして自信を持って振る舞い、成果を出すというプロセスはどのような領域においても汎用的な行動習慣だからです。

もちろん、上司にはあまり準備をしなくてもうまくこなせてしまう人もいるでしょう。しかし、それは見えないところで準備をしている、またはこれまでの経験の蓄積によるものだと考えられます。まだ経験の蓄積が無い我々のような若手は、一つ一つの仕事に徹底的に準備をする経験を積み重ねていくことで習慣を身に着ける必要があります。

 

まとめ

徹底的な準備と事前のシミュレーションが自信のある振る舞い、よい成果を生み、中長期的に個人としての信頼を生み出していくのでしょう。

言い換えるならば、日々の行動において「まあいいや」「なんとかなるだろう」と思わないことが大切なのかもしれません。

余談ですが、私の好きな漫画「ソラニン」にこんなセリフがありました

「あたしが思うに、大人は「まあいいや」のカタマリだ。」(芽衣子)

 

そんな妥協した「大人」にはならないよう、準備を怠らず自信を持ってがんばってこうと思います。

結果を出すリーダーはみな非情である-変革者になるために必要なこと-

日々の仕事の中でどのようにリーダーシップを取っていくか、結果を出すリーダーの条件は何なのか考えたことはないでしょうか。表題の本はまさにその問いへの答えともいう本です。

本書のタイトルとメッセージは少し異なっており、メインメッセージは日本の企業においては「ミドルリーダー」というべき課長クラスが実際の影響力を持っており、彼らの能力が企業全体の成果を大きく左右するということでした。

まず、なぜミドルリーダーの能力が大きな影響力を持つのか、次に変革を生み出すミドルリーダーとなるには何が必要なのか、本書の内容を基にまとめたいと思います。

なぜミドルリーダーが影響力を持つのか

1.日本の企業の意思決定はトップダウンではないため

日本企業における意思決定方法では、事前のオプション作成の時点で実質どのオプションをとるかについての意思決定は完了しており、経営層は承認するのみとなるケースも多くみられます。したがって意思決定権は実質的にオプションを作成する課長クラスにあり、会社全体の方針を決めうるといえます。

 

2.現場の情報と、上層の情報が両方入ってくるため

正しい意思決定を行うためには、その根拠となる情報を早く、正確に把握することが必要になります。このように考えたときに、経営層では現場の情報は課長クラスを経由してまた聞きすることになり、スピードに欠けます。一方、課長クラスは現場の情報も経営層の情報も両方タイムリーに把握することが可能です。この背景から、課長クラスが会社全体の情報のハブとなるケースが多く見られます。

 

3.フットワーク軽く動き回れるため

多くの日本企業では、外資系の企業と比較して業務分掌がそこまで明確に定義されておらず、本業とは関係のない部門を横断して働きかけることが許容されています。いいかえれば課長クラスによる越権行為が認められているともいえます。

変革を起こせるミドルリーダーになるには

1.論理と情理で人を動かすためのスキルを磨く

人を説得するための前提として、徹底的にファクトやデータに基づいて論理を構築することがあげられます。論理とは正しい判断をするためのツールである以上に、人に理解を促し、納得してもらうためのツールであると考えています。また、意思決定をする際に情に流されては効果的な決定はできず、今までの努力や過去の成果に影響されてしまうと変革は起こせません。そのため、時に非情ともとられかねない判断が必要になります。

一方で、人を巻き込んで変革を起こすには論理だけでは十分ではありません。人が理解してから実際に行動するまでには、利害関係や、個人の感情も大いに影響するためです。したがって社内の政治や、個人の感情の問題も同時に満たす交渉力、つまり「情理」が求められます。

 

2.経営層の視点で会社を捉える

変革を起こす際には多くの場合、自分の部門だけではなく他部門、場合によっては他社を巻き込む必要があります。このような時には自部門の目標だけではなく、その取り組みが会社全体として、ひいては社会にどのような意味を持つかを考えながら働くことが重要です。

つまり視点を経営層のレベルまで引き上げ、会社全体、取り巻くステークホルダーを含めた関係性全体を構造的・システム的に捉えるということが求められているといえます。

 

これらの変革を起こすミドルリーダーに必要な条件が実現できれば、現在所属している企業において変革を起こすことに限らず、どのような環境でも価値を発揮できる人材になるでしょう。

上記の条件を振り返ると、コンサルタントという仕事は、経営層の視点で考え、クライアントを動かすという点で変革者となるための有効な職種かなと改めて思います。

常にクライアントの変革を目的としていますし、理論的、構造的に考える癖はつきます。また、プロジェクトベースで3ヶ月~6ヶ月という短い期間に目的を果たすことが求めれるため、プロジェクトの目的は常に意識させられる環境にあります。

最近の課題として、クライアントの求めるものを提供することは前提として、時には衝突を恐れずにクライアントに反する事もいう必要があると感じています。八方美人になってしまうと結果的に良い成果は得られず、変革は起こせないと改めて思います。

変革とは反対を伴うからこそやりきるのが難しく、また意義があるのでしょう。

ビジネスプロデュース戦略ー産業の壁を超えた事業創造に必要なこと➖

今日はコンサルティングファームドリームインキュベータ(DI)が、数多く手がけてきた事業創造プロジェクトの経験に基づき、その方法論を解説した本を紹介したいと思います。

 近年、多くの日本企業において既存事業の成長が鈍化し、新たな軸となる事業を立ち上げようと努力しています。特に最近では様々な企業がロボット、ライフサイエンス、AI、ドローンなどといったキーワードで新ビジネスを開始すると話題にあがっているのを聞いたことがあるのではないでしょうか。

 しかし、実際に新たな主軸となるようなビジネスを起こせているケースは多くありません。その原因として、有望な技術が起点となっており、そのビジネスによって解決される課題が小さいということが想定されます。

 この問題を解決するために本書では環境問題、人口問題、エネルギー問題といった「社会課題」を起点とした事業創造を提案されています。ただし、社会課題を解決するためには今までの産業という枠組みを一度外し、解決策を検討する必要があり、難易度はさらに高まります。このような難しい取り組みを実現するための方法論について本書では紹介されています。そこから重要なポイントを自分なりに再整理したところ、以下の様にまとめられると考えています。

 

産業の壁を超えた事業創造に必要なこと

  1. 業界や企業という前提を外した大きい絵を描く力(コンセプトメイキング)
     社会課題はひとつの企業が提供する製品やサービスで解決できるとは考えにくく、業界の壁を超えて今は存在しない新たなエコシステムを形成することにより解決策が見いだせると考えられます。例として、エネルギー問題を起点として電気自動車ビジネスを始めようと考えた場合、電気自動車メーカー単体では電気自動車の普及を実現することは難しく、インフラ(電気スタンド)やキー部材(電池)も検討領域に含める必要があります。
     このようなエコシステムをデザインするという観点では、以前考察したオープン・クローズ戦略も近しいところがあるように思います。
    オープンクローズ戦略-エコシステムを形成すること- - 思考・妄想の外部化-経営コンサルタントの頭の中-
  2. 法律や規制を制約とせずに必要に応じて変える力(ルールメイキング)
     また、社会課題を解決するような取り組みをする場合、既存のルールが障壁となったり、将来的に設定される新たなルールが障壁になるケースが想定されます。例えば今後自動運転車が普及していくと想定すると、道路交通法が障壁となることは明らかです。この時、各国の省庁に働きかけ新しく制定される法律を自社に有利なように設定できるかはその後のビジネス展開に大きな影響を与えます。
     このようにロビー活動を積極的に実施し、法律や制度に影響を与えることも、新産業を作成する上で重要な要素であると言えます。
  3. 大きい絵を実現するための協力者と繋がる力(ネットワーキング)
     新事業を生み出すにあたり必要なプレーヤーを選び、巻き込み、同じゴールを目指す協力者にすることも必要不可欠です。その際に、それまでの取引先や関連会社を対象とするのではなく、同じコンセプトを実現する主体者として最適なプレーヤーを選び、協力関係を作ることが重要であると言えます。場合によっては競合他社を巻き込む必要があるケースも多いでしょう。
  4. 構想通りに物事が進まない場合に臨機応変に修正する力(リーンチェンジング)
     新しい事業を生み出すことは不確実性が高く、いかに計画を綿密に立てていても想定外の事象は発生すると考えておいたほうがよいでしょう。その想定外が発生した際に、混乱するのではなく臨機応変に方向転換する能力も、重要であるといえます。
  5. オーナーおよび協力者と適切なKPIを設定・合意し、進捗をフォローすること(ゴールセッティング)
     新事業の中でも特に規模が大きいものでは、立ち上げ直後から黒字化をすることは難しいでしょう。その時にオーナーおよび協力者と何が実現されれば、新事業は順調に進んでいると言えるのか、それを評価するためのKPIを設定し、合意することも事業を途中で止めないために重要なポイントです。

事業創造の実現に第3者(コンサルティングファーム)が提供できる価値

 上記に挙げた5項目はそれぞれ難易度が高く、社内のリソースだけでまかなえる企業というのは殆ど無いのではないでしょうか。そこに我々コンサルタントの提供価値があるように感じています。

例えば、1.コンセプトメイキングでは、既存の事業の前提や利害関係にとらわれていないからこそ、広い視野を持ち大きなコンセプトを作るサポートができると考えられます。

2.ルールメイキングでは実際に法案を作成していた中央省庁出身者のコンサルタントを活用することで、実現性が高まるでしょう。

また、3.ネットワーキングに関しては様々な業界におけるプロジェクトを経験しているからこそ、業界を横断した人脈を提供が可能となります。

5.ゴールセッティングについても、第3者であるがゆえに、プレーヤー間で発生する利益相反が発生せず、フェアな目線でKPI設定ができます。

以上のように、新事業、新産業を想像する上で、コンサルティングファームが価値を提供できる要素は多いのではないでしょうか。そのようなプロジェクトに関与できるとワクワクします。

ハゲタカのモデルとしての佐山氏−鷲津と芝野の二面性−

Newspicksのイノベーターズライフというコーナーで、PEファンドであるユニゾン・キャピタルインテグラルの創設者である佐山さんの特集がされていました。

newspicks.com

 

彼のキャリアは帝人でエンジニアとしてスタートし、その後、銀行でM&A業務に従事、バイアウトファンドを立ち上げ、東ハト、ワールド、スカイマーク等数々の話題のM&A案件にかかわられるという、非常に珍しいキャリアを積まれています。

 私は真山仁の小説「ハゲタカ」のファンなのですが、この特集を読むと小説「ハゲタカ」の多くの描写が佐山さんの経験やキャラクターに基づいていることがわかりとても驚きました。

特に製菓メーカー東ハトの再生案件での佐山さんの立ち回りは限りなくハゲタカの主人公「鷲津」に近い物でした。

小説中では玩具メーカーの話にはなっていますが、破産寸前のメーカーの再生プランを立て、オーナーや経営層と交渉し、外資金融とのビット合戦にあらゆる人脈を使って勝つという流れは小説そのままです。この恐ろしいまでの周到さと勝つことへの徹底した姿勢は尊敬するとともに見習いたいと思います。*

 一方で、買収した企業を再生・バリューアップさせるために、現場を回って汗をかいて実態を把握し、現場の人ともコミュニケーションを取って企業風土を変革していく取り組みは、むしろ小説で鷲津のライバルとして描かれているターンアラウンドマネージャー「芝野」を髣髴とさせます。

 つまり、佐山さんは、小説では宿敵として描かれる鷲津と芝野の相反する2つの特性をどちらも持ち合わせていると言えます。彼は「人を信じずに、相手の裏の裏まで読み切る厳しさ」と、「人を信じ、地道にコミュニケーションを取ることで信頼を構築し事業を再生させる優しさ」を両方持っており、とても魅力的に感じました。

 

余談にはなりますが、私が大学生の頃、佐山さんが講義に来られたことがあり、少しだけお話をしたことがあります。彼は学生に対しても気取ったり、偉そうにすることなく非常に親しみやすい人柄の方でした。また、その時も彼は特集と同じように「面白そうなもの」に取り組んできたとおっしゃっていました。私は、この考え方はスティーブジョブスの「Connecting Dots」とも似た考え方だと捉えています。私もその時々の「面白そうなもの」に対してアンテナを立てて、それぞれに全力で取り組んでいきたいと思います。

*以前、ハゲタカから学んだことについて記事

「ハゲタカ」「バイアウト」「レッドゾーン」「グリード」-鷲津政彦に学ぶビジネスで成功するための本質- - 思考・妄想の外部化-経営コンサルタントの頭の中-